早坂みうらの家族旅行写真について ―― あずまきよひこ『よつばと!』第10巻

早坂みうらが『よつばと!』に初めて登場するのは第2巻(第8話)。以来、この子の家庭環境、親子関係がどのようなものなのか、なぜか*1気になっていた。

でも、よつばは なかなかそれを確認させてくれない。みうらのマンションのエントランスまで行ったのに、中には入らなかったり。

そうなると、みうらのお父さんの仕事がいそがしいらしいこととか、花火大会でよつばや綾瀬恵那は浴衣なのに対して みうらは普段着だったり、朝のラジオ体操に出てこないことなど、つまらないことが気にかかってくる。果ては、みうらがマンション住まいであることまで、何か意味があるのではないかなどと勘ぐったり…。

ほっとしたのは、お祭りのとき(第8巻54話)。みうらは目の辺りにすこし化粧をしてもらっているように見える(ピッととがった睫毛の表現……たぶん通常これは大人の女性に使うもの)。きっと、やさしいお母さんがいるのだと思った。




そうしていよいよ第10巻(第69話)。

恵那に誘われて、よつばが初めてみうらの家を訪れる。よつばの近道じゃない近道や、ボタン全押しエレベーター爆発などに付き合って、やっとたどり着く みうらの部屋。

そこで みうらは よつばたちにハワイの写真を見せる。これまで何度も話題になっていた*2家族旅行の写真だ。

ぼくは よつばといっしょになって恵那の肩越しにその写真を覗き込む――



みうらだけが写っている。つまり、カメラを手にした撮影者にとって、みうら以外には被写体にすべき人が存在しないということだ。撮影しているのはお父さんだろうか。

その写真なかで、みうらは これまで見せなかった笑顔をしている。みうらは よつばの前では「お姉さん」(保護者)だから、これは よつばと一緒にいるときは見せない顔なのだ。でも、この写真のなか――家族のなかでは、みうらは ただしく こどもに もどって、屈託なく わらっている。
そして現れる みうらのかーちゃん。
ああ、これはまぎれもなく『よつばと!』なのだな。
無能な保護者が『よつばと!』の世界に入り込む余地はない。
ただ見ているだけの無能な保護者であるぼくは、よつばの背後から、幽霊のように 『よつばと!』の世界を見るほかない。


この、早坂みうらの屈託ない笑顔と読み手との間の距離の取り方には、ほんとうに感心する。

*1:ほんとはそこをきちんと作文しないとダメなんだけど。

*2:初出は第4巻(23話)か。