神保町の三省堂からお茶の水まで歩く道

ぼくが中学生になってしばらくして、ある日曜日、ぼくは父と一緒に新幹線に乗って東京へ出かけた。

父はぼくを三省堂書店神保町本店に連れて行った。これほど大きな書店を見るのは初めてだった。初めて見る本がたくさん並んでいた。学習参考書のフロアに行くと、父は「東京の子はこんなに勉強するんだよ」と言った。

ぼくは本を買ってもらった(何の本だったのか覚えていない)。父はビートルズのCDが安売りされていたのを買っていたと思う(そのCDはいまiTunesに入っている)。そして、坂をのぼって お茶の水駅まで歩いた。父が駿台予備校で大学浪人をしていた話など聞きながら歩いた。

その後、上野の国立科学博物館に行った。ぼくはずっとフーコーの振り子をながめていた。父は黙ってぼくに付き合っていた。ぼくが振り子に満足すると、博物館のレストランで食事をして、帰途についた。


結局、ぼくは中学校の3年間あそび惚けていて全然勉強しなかったけど(そのつけは高校に入ってから回ってきた)、父に「勉強しなさい」と言われた記憶はない。(そのかわり、母には よくしかられた。そこは役割分担だったのだろう。)

あの日、母や弟妹をおいて、父がぼくと二人だけで東京に出かけた ほんとうの理由は わからない。三省堂に行ったのは、何か別の用事の「ついで」だったのかもしれない。


今でも神保町、お茶の水あたりの街がすきだ。どんなお店があるのかも いまだによくわからないけど、ただ、あのあたりを歩くのがすきだ。