マギカのことと、全然関係ないこと

マギカのこと

美樹さやか巴マミ佐倉杏子は「魔法少女になって魔女とたたかうこと」の意味付けに ことごとく 失敗している。*1

美樹さやかは失敗を自覚しつつも意味付けに固執し、佐倉杏子は意味付けを放棄しても それを貫徹できずにいる。

ぼくは ぼくが働くことの意味をうまく見つけられず、しかし意味付けを諦めることもできないことを 彼女らに重ねて見ている。

そもそも、働くことの意味なんて「お金を稼ぐ」の他にはなくて、あるとしたら、たいていそれは「自分で自分をだますウソ」だ。自分でさえ自分を裏切るのだから、自分以外のもののために働いても、いつか必ず裏切られる。(これは去年のリストラで思い知らされた…)。だから、徹頭徹尾、自分のために働くことが「正しい」。

あまり関係ないこと

でも、思うに。

何かを声高に主張するとき、その人は往々にして その主張を信じていない。信じきれていない。他人に影響を与えるために戦略として言っていることもあるだろうし、でも一番多いのは、自分で自分をだますためだと思う。(あるいは、自分の考えを論駁するあたらしい考え方を無意識に待ち望んでいるのか。

(だから佐倉杏子は自分が信じていることを貫徹できずに、過去の自分と重なる美樹さやかが気になって、説教しちゃうんだと思うね…

ほんとに信じきっている人は、たぶん何も言わないもの。「ぼくはこう信じてる」ってことさえ、あたまに思い浮かばないはずだから。(いやそういうのは「信じている」とは言わないのかもしれないけど。

だから、いちばんえらいのは、あたまがカラッポで、なにも言わない人だと思う。

ことさらに何か言ったり書いたりするとき、その内容如何に関わらず、その人はその時点でもう どこか まちがえているのだと思う。(まちがっててもいいのだけど。

たぶん、こどものように喋ったり書いたりする人だけが ただしい。

(それが鹿目まどか

全然関係ないこと

ふと、昨年のリストラで会社を去った人のことを思う。

午後5時から人生が始まるような人で、趣味の話になるとすごくおもしろいのだけど、仕事についての評判はわるく、よく管理職に怒られていた。ぼくはその人を半分バカにしていたけど、仕事に対する さっぱりした態度がすきで、半分は尊敬していた。

希望退職の募集が始まっても、その人は何も考えていないような素振りで飄々としていた。普段から上司の悪口も言わず、仕事の愚痴もこぼさない人だったし、リストラの話を振ってみても、「昼休みに そんなつまらない話はよそうよ」と、すぐ趣味の話になってしまう。

その人には今の会社にしがみつくしか選択肢はないと、ぼくは思っていた。完全に団体職員に染まった40歳手前の人物が、民間に行って使い物になるわけがない。

だから、その人の会社を去るという決断を知って、おどろいた。そして、ひどく ちからが ぬけてしまった。洞窟に閉じ込められた同じ「山椒魚*2だと思っていたら、軽々と飛翔して行ってしまったのだから。まったく、それから数か月間の虚無感といったらなかった…。

まあ、評判の良くない職員に対してはゴミカス天下り役員から狙い撃ちの「肩たたき」があったという噂もあったし、ほんとうは、相当に悩んで出した結論なのだとおもう。その人が そんなに軽々と飛び立ったとは思わない。

でも、その人が、自分の人生設計を狂わせた会社に対してどんな思いを持っていたのか、自分のことを公然と「木偶の坊」呼ばわりしていた上司や、それを見ていた職員に対して どんな気持ちをもっていたのか、また、どういう目算を立てて希望退職募集に応じたのかは、わからない。そのへんの わだかまりを どうやって飲み込んで、どうやって消化したのかも わからない。会社や仕事の話になると すぐに席を立ってしまうし、直接 聞いても はぐらかすようなこたえしか しなかったから。たぶん、ぼくに言いたいことなど 何もなかったのだろう。

いずれにせよ、その人と もっとよく話をして、その人が考えていることを もっとよく聞いておけばよかったと思う。会社に残ることを決めた ぼくには、肝心のことは話してくれなかっただろうけれども。

ふたたびマギカのこと

話がそれたし、なんだか良く分からなくなってきたので、マギカに戻して終わる。

(これは前に書いたけど)鹿目まどかが どんな魔法少女になるのか、あるいは ならないのか、とても楽しみにして、ぼくは毎週このアニメを見ている。魔法少女になるのなら、美樹さやかとも佐倉杏子ともちがう魔法少女になってほしい。それがどんな魔法少女なのか、想像がつかないけど。

そして、あんこ萌え〜。(しかし、第8話放送まで、長い4〜5日間になりそうだ。自分のためだけに魔法を使ってくれと思うけど…。)

via.

 「よろしい。しづかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちやくちやで、てんでなつてゐなくて、あたまのつぶれたやうなやつが、いちばんえらいのだ。」
 どんぐりは、しいんとしてしまひました。それはそれはしいんとして、堅まつてしまひました。

宮沢賢治 どんぐりと山猫

「あの人どこへ行ったろう。」カムパネルラもぼんやりそう云っていました。
「どこへ行ったろう。一体どこでまたあうのだろう。僕はどうしても少しあの人に物を言わなかったろう。」
「ああ、僕もそう思っているよ。」
「僕はあの人が邪魔なような気がしたんだ。だから僕は大へんつらい。」ジョバンニはこんな変てこな気もちは、ほんとうにはじめてだし、こんなこと今まで云ったこともないと思いました。

宮沢賢治 銀河鉄道の夜

D

*1:魔女とたたかうことの意味(意義)を過度に強調することなく、あくまでも「願い事をかなえてあげる」という明確な対価を前面に出して勧誘するキュウベエの営業手法は、その点において誠実なものと言える。

*2:大塚英志「初心者のための『文学』」の『山椒魚』(井伏鱒二)を扱った箇所に、こういう記述がある。「「閉じた世界」にいると、自分より愚かだったり無力のように思える誰かが、しかし、自由に外に出て行くことができるのに気づき、そのことに人は怒ることがあります。」