海の見える街

いつの日か、海の見える街で暮らしたいと思っている。
先日、大家から今月で部屋を出てくれと言われ、あわてて駅前の不動産屋でアパートを探して、契約をすませた。この一週間は、住所変更のためのあれこれの手続きや引越しの準備に追われ、横暴な大家に一人悪態をついてみたり、無意味な回り道を強いられることに いらだったりしながら過ごした。
「海の見える街」も結局は遠い夢に過ぎなくて、この街で一生を終えるのだろうと、あたまのどこかで思う。でも、その遠い街を思うと、いろいろな怒りや不安やいらだちが、すーっとどこかに行ってしまう。そうして今は、こころがからっぽになって、食器を新聞紙で包んだり、書棚から本を取り出して箱に詰めたり、静かに働いている。
引越先は、窓を開けても隣のビルの壁しか見えない ちいさな部屋だけど、新しい生活を すこし楽しみにしている。

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